INTERVIEWインタビュー

INTERVIEW

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アーティスト 越前菜都子氏 インタビュー

インタビュー

4月29日(土)から5月28日(日)までの期間中、VIVI2Fアートスペースにて越前菜都子氏個展【Harmonious】が開催されます。
今回は越前菜都子氏にインタビューを実施し、今回の個展の見どころやご自身の作品についてお伺いしました。

<profile>

越前菜都子
イラストレーター /アーティスト
石川県出身 東京都在住。イラストレーターとして広告、書籍装画、ミュージックビデオ、アニメのキャラクターデザイン、アパレルブランドへの作品提供など多岐にわたる分野で活躍しながら、近年は並行して自身のアート作品も多く発表。日本画の経験を活かした独自の世界観と物語性が特徴。WAVE2019、2020、2021のほか、ラフォーレ原宿や新国立美術館の企画展にも参加。台湾文化省主催のCreative Expo Taiwan /臺灣文博會のtalent100〈アジアで注目の若手クリエイター30人〉に選出される等、海外でも活躍の場を広げている。
【HP】https://natsuko-echizen.com/

――まずは個展のテーマや作品について教えてください。

今回は「共生」というテーマで制作した作品を展示しています。
ひとつの作品に人間・動物・植物を描くことで、主従関係のないフラットな世界を表現しました。
例えば人と人を描くと、その関係性に名前をつけられることが多いと感じていて。共生をもっと抽象的に表現したいと考えたときに、わたしの中でしっくりきたのが動物や植物といったモチーフでした。

――「共生」をテーマにした理由はどんなところにありますか。

もともと、女性と動物、お花の組み合わせを描くのがすごく好きだったのですが、自分が大事にしているのはその関係性であることに気付いたのがきっかけです。
よくあるモチーフの組み合わせではあるんですが、人間と動物でも「ペットと飼い主」みたいな感じではなく、フラットな関係性を意識して描いていたんです。
個展のテーマを考えていたときに初めて、そういう自分の潜在的な想いを「共生」という言葉にできました。
そうした発見の元となった過去作が2作品あったのですが、それ以外の作品は共生というものを突き詰めていこうと決めてから描いた新作になります。

――今回は、東京のYUGEN GALLERYで大好評を博した【Harmonious】の名古屋巡回展。松坂屋名古屋店とVIVI、2拠点での同時開催ですが、展示品にはどのような違いがありますか。

松坂屋の方からは「カジュアルにアート購入を楽しんでもらえるようなイベントにしたい」と伺っていたので、飾りやすいサイズのジークレープリントの作品がメインになります。
一方VIVIでは約2mの大作など、YUGEN GALLERYで開催したときと同じように空間を意識した展示を行う予定なので、臨場感や没入感を感じていただけると思います。
実は、前回その約2mの作品を気に入ってくださる方も多かったのですが、当然飾るのには向いていないので(笑)。今回はそちらの作品もお部屋に飾っていただけるサイズのジークレーを新たにご用意したので、ぜひ注目していただきたいですね。

――越前さんの作風といえば繊細でリアルなタッチと透明感が印象的ですが、制作方法やご自身の作品のルーツを教えてください。

基本的に、一度デジタルデータで書いたものを出力して、その上から「岩絵具」という砕いた鉱物と膠(にかわ)を混ぜて作る画材で描いています。
もう最初の段階から、デジタルで表現したい部分と岩絵具で表現したい部分、あとは箔を貼ったりする部分などを決めながら構成しているので、そういったものをすべて組み合わせて制作しています。

ルーツと聞かれると……正直言うと分からないんです(笑)。
子どもの頃からずっと絵が好きで描いてきて、映画やアニメなどの影響を受けたこともありましたし、大学で日本画を専攻していたときの学びや先生からいただいた言葉も今でも大切にしています。
卒業後イラストレーションの世界に入ってからは、アクリル絵の具で描くようになったり、デジタルイラストレーションも使って……と、とにかく色んな画材を使って色んな表現をしてきました。
そして今ようやく自分の中で、デジタルでしか表現できないもの、岩絵具でしか表現できないもの、アクリル絵の具じゃないとできないことっていう答えが出てきたんです。
「何かひとつの手法に絞らないといけない」という固定観念から抜け出すことができたので、今回は自分ができる表現方法を取捨選択して、すべてのいいところを取り入れて自由に描くことができた、という感じですね。

――大手広告をはじめ数々のクライアントワークをされている中で、10年ぶりの個展。イラストレーターとしてご活躍されるなか、個展を開催された理由を教えてください。

イラストレーションのお仕事はとても好きですし、やりがいがあると感じています。
「人に求められるものを描く」ということは多様なタッチを求められるので、それに対していつも全力で応えてきました。
ただ、やはりそれを長年続けてるうちに「わたしの絵の強みってなんだっけ」と考えることもあって。いつの間にか、何でも描ける人みたいになっちゃったんですよね。
それも素晴らしいことなんだけれど、将来的に「別に越前さんでなくてもいい」と言われてしまうんじゃないかな、とふと思ったんです。「越前さんじゃなきゃ」って言ってもらうためには、わたしの個性や強みを打ち出していかなくてはいけないと、ここ3、4年前から思い始めました。
そのためにはやっぱりクライアントワークだけではなく、自分のオリジナリティを知ってもらうことが大事なのかなと思って個展を決意しました。

とはいえ、わたしは一作品制作するのに結構な時間がかかってしまうんです。個展をやるとなったらたくさん仕事も断らないといけないので、かなりの覚悟が必要でした。
今回の準備には10ヵ月くらいかかったのですが、それでも「間に合わない!」って言いながらやってましたね(笑)。

――ご自分の作品を制作するのは、やはり楽しいものですか?

いえ……もう全然楽しくなくて、産みの苦しみしかなかったです(笑)。
わたしは絵を描いているとき、自己表現だったり達成感を得るというよりも「これを見た人は何を感じて、どんな感情を持って帰ってくれるのかな」って、お客さんのことばっかり考えていて。
皆さんが展示をすごく楽しんで、色々感じ取ってくれている様子を見て、やっとそこで楽しいと思えるんです。「やっぱりわたしはイラストレーターなんだな」と感じる瞬間でもありますね。

――イラストレーターとしても有名な越前さんは、アートに今まで携わったことがない人とアートとの架け橋的な存在になるのかなと感じます。

そうであったらいいですね。わたしは日本画やアートを学んだ上で「もっと生活に密着した仕事がしたい」と思ってイラストレーターになったので、アートワークをするときもあまり敷居が高い感じにしたくないと思っています。
私自身、アートギャラリーや美術館での展示も大好きなのでそういった展示もぜひやっていきたいと考えています。
一方で、普段の生活の中でも出会えるような作品を作りたいという想いでずっと活動してきたので「アートのことは分からないけれど、でも好きだな、楽しいな」とか、普段アートを観ない人にも、本当に気軽な気持ちで入っていただけたら嬉しいです。

――では「レストラン」という生活に密着した場所は、越前さんの意向とマッチしているんですね。

そうですね。でもすごくドキドキしていますし、不安もあります。
前回開催したギャラリーはもともとアートが好きな方だったり、自分好みのイベントかどうか分かった上で足を運んでくださる方が多いのですが、今回はそういうわけではないので……。なんだか試されているような気持ちもあり、とにかく緊張していますね。
ただ、出身は石川ですが、名古屋にも少し住んでいた時期もあったので、ちょっと「帰ってきた」感覚があるというか。
名古屋という街は、自分が住んでた時と比べてカルチャーの要素もさらにパワーアップしていると感じているので、それが楽しみでもあります。

――VIVIの印象はいかがでしたか?

実は以前から牧かほりさんの作品がとても好きなので「かほりさんの作品がある場所で、自分の絵を展示できるなんて……」と感動しています。
VIVIはとても上質な空間ですし、相乗効果でわたしの作品もよりよく見せてくれるような力があるんじゃないかなと思っています。

――作品の楽しみ方を教えてください。

岩絵具は粒子の粗さがひとつひとつ違うので、作品の表現したい質感によって使い分けているんです。例えば海辺の砂浜の部分には、粒子が粗くてザラザラした岩絵具を使って砂を表現しています。そして、水面の煌めきなどに使用している箔は角度によって光り方が変わるので、そういった部分も楽しんでいただけると思います。
足を運んで来ていただいた方に「どんなものをプレゼントできるか」「どんなサプライズが用意できるか」ということをとても大切に想いながら制作してきました。そういう、写真やデジタルではなかなか伝わりきらない部分を感じていただけたら嬉しいですね。

――最後に、ご来店されるお客さんにメッセージをお願いします。

世の中は、人種・性別・年齢・価値観などから生まれる利害関係や上下関係で溢れています。
だからこそ「フラットな関係性の心地良さ」を感じてもらいたくて今回の作品を制作しました。
お客さんからはよく「物語性を感じる」という風に言ってもらえるんですけども、確かにわたしは絵を描く上でキャラクターの設定や物語を頭の中で想像して制作しています。
でもそれを伝えたいわけではなくて、見た人それぞれの経験から得た感受性、創造力をもって、その人だけの新しい物語を生み出していただけたらいいなと思っています。

――越前さん、ありがとうございました。

取材・テキスト/ライターチームマムハイブ(https://mamhive.com/)ウシマルトモミ

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