5月2日(金)から6月1日(日)まで、VIVI2Fアートスペースにて徳竹ヒデミ氏個展【契機なるもの】が開催中です。
今回は徳竹ヒデミ氏ご本人にインタビューを実施し、個展の見どころやご自身の作品についてお伺いしました。
profile
徳竹ヒデミ @hidemitokutake_ceramics 公式HP
2013年オーストラリア国立美術学校(National Art School)卒業
国立美術学校で陶芸を学び、卒業後は、多様な文化に触れるためデンマーク、スコットランド、アメリカなど複数の国に滞在して制作に従事してきた。2017年からは故郷の刈谷に工房を設けて制作を行なっている。
制作において影響を受けたのはオーストラリア在学中に出会ったアボリジニ・アートであった。オーストラリア先住民であるアボリジニは文字をもたず、世界の成り立ちと、その世界の中に住まう諸存在の関係をアートによって表現してきた。彼らのアートは、先祖から伝わる精霊の旅、その道のりを表しており、過去と現在、人間と非人間が渾然一体となり、自分自身とつながっていることを表現している。このような世界の見方はドリーミングやドリーム・タイムと呼ばれる。「目覚めながら夢を見る。」「夢の中の時間で今を生きる。」アートと生きることが不可分であること、それがアボリジニ・アートだった。

――今回の個展のコンセプトについて
わたしは普段から「この世に存在しないものたち」を作っているので、来てくださったオーディエンスをアナザーワールドに連れて行くようなイメージで構成しました。
旧作も展示していますが、全作品中3分の2は今回の個展に向けて用意した新作になります。
陶器からすると、VIVIのギャラリースペースは天井も高くてとても広い空間なので、今回はインスタレーション作品を多く展示しています。
わたしの作品はぶつぶつしている形が多いので、ある程度広さがないと空間が歪むと言いますか、気持ち悪い空間になってしまうんです(笑)。
なので、今回は今まで機会がなく未発表だった大きめの作品も叶いました。

――「契機なるもの」というタイトルに込められた意味は
VIVIでの個展が良い機会になるといいなという願いを込めて、変化・発展を起こす要素や原因、または、きっかけの意味を持つ「契機」という言葉を使いました。
また、わたしは粘土だけでなく額縁やケースなどの人工物も交えて作品を作るので、60年代後半から70年代前半に自然物と人工物を用いた作品を制作した作家グループ「もの派」に通じるものがあると思い、個展のタイトルに「もの」をつけるようになりました。
タイトルはオーディエンスに分かりやすいことを理想としているので、この先もしばらくは「もの」をつけていくつもりです。

――生命を感じる作風はどういったものから影響を受けたのでしょう
オーストラリアに住んでいたときに出会ったネイティブプランツたちにヒントを得て、現在の作風に至っています。
ネイティブプランツはバンクシアなどが代表的ですが、ブルーマウンテンズを歩いていたときも不思議な植物たちをたくさん見かけました。

お客さんにはよく「海の生き物ですか?」と聞かれるのですが、わたしは実際に目にして頭のなかに入ったものからしか作品を作ることができないんです。なので、スタジオに飾ってある身近な植物を見たときの感動や感情が、作品の生命力になっているのだと思います。
最近は動物を意識したものも作っているんですが、最初から完成図があるわけではなく、気づけばヤギっぽくなっていってヤギが完成したりするんです。
だから、なんだか粘土に誘導されて作っているように感じることもありますね。

――陶芸をはじめて、オーストラリアに渡ったきっかけとは
元々はデザイナーの仕事をしていたのですが、父親の看病をきっかけに退社して作家を目指すことに。日本の学校で陶芸を学んだあとに、オーストラリアの大学に留学しました。
今自分が使っている釉薬はオーストラリアの先生のレシピなのですが、オーストラリアでは「あなた○○大学の生徒よね」って言われるくらい有名な釉薬なんです。
その釉薬を使って自分にしか出せない表現を試行錯誤した結果、敢えてムラができるように釉薬は筆で塗って、焼くのも電気釜よりも綺麗に色が出にくいガス釜を使っています。

海外に行くことによって、日本の文化の良さを海外の人から教えてもらうことも多かったですね。
わたしが着物をよく着ているのも、オーストラリアの子に「日本にはせっかく伝統的な服があるのになぜ着ないの?」と言われたことがきっかけなんです。
それからは、着物はただ着るのを楽しむだけではなく、オーガナイザーの方に敬意を表したり、来てくれたお客さんたちに感謝の意を表すための正装として着用しています。

――VIVIでの個展の感想は
わたしも愛知県で活動をしていますが、名古屋の方に自分の作品を見ていただける良い機会だと思っています。
VIVIは現代アートを怖がらずにやっているという印象なので、そういう攻めた空間に自分の作品を置いてもらえるのはすごくありがたいことだと思いました。
オーナーの杉本さんがお客さんを2階に上げてくれるので、たくさんのお客さんとお話しできることも嬉しいですね。
今回の個展で初めて額縁を使ったのですが「じゃあ違う額縁も見に行こう」と言って杉本さんが額縁屋さんに連れて行ってくれたりしたので、本当にこの個展が契機になっているなと感じています。

――作品の楽しみ方など、お客さんへメッセージをお願いします
わたしの作品は360度全ての方向から鑑賞してもらうことを意識して制作しています。
個展期間中も少しずつ角度を変えて展示しているので、表情の変化も楽しんでもらえたらと思います。
そしてわたしはデッサンをしてから3Dに起こすことができないため、いきなり粘土で作っていくスタイルですし、加えて不器用なので、同じ作品は二度と作れないと自信を持って言えます(笑)。
なので、その唯一の作品の味を全方向から楽しんでいただけたら嬉しいですね。
わたしは自分の作品を「枯れない植物」とよく表現しているのですが、植物のように空間を華やかにする力があったらいいなと思っています。
――デミさん、ありがとうございました!
取材・テキスト/ライターチームマムハイブ(https://mamhive.com)牛丸朋美