12月15日(日)から1月26日(日)までの期間、VIVI2Fアートスペースにてオカダミカ氏による個展【 / ( スラッシュ )】が開催中です。
今回はオカダミカ氏にインタビューを実施し、今回の個展の見どころやご自身の作品についてお伺いしました。
profile
オカダミカ @micccccca
京都精華大学美術学部洋画専攻卒業。
イラストレーション青山塾修了。
村上龍原作『ダメな女』の装丁イラストレーションでデビュー。
国内外を問わず、装丁、雑誌、アパレルとのコラボレーション等、多方面でコマーシャルワークを行う。
近年では、NHK中国語講座オープニング&セット用絵画、青参道アートフェアにおけるUnited nude本店ディスプレイ、VOGUE JAPAN FASHION’S NIGHT OUTイベントでのMaxMaraイラストサービス、新宿伊勢丹インフォメーション用ファッションマップ等も手掛け活躍の幅を広げている。また、現在「週刊新潮」にて人気作家 村山由佳『DANGER』の挿絵を担当中。
――今回の個展のコンセプトについて教えてください
以前の個展のタイトルが「境界線」「ちてん」「交差する」と続いていて、近年自分の中で徐々に描きたいものの方向性が固まってきていると感じています。
私の作品の大きなテーマとして、AとB、例えば植物と人間、人間と人間を描いたときに、それらが重なり合っていたとしてもそれぞれが別であると同時に等しいことを表現したいという想いがあります。
今回は、言葉遊びをしながらタイトルを探しているうちに、andやorといった意味を持つ記号「/(スラッシュ)」に辿り着きました。
スラッシュは強弱や上下といった意味を含んでいないので、主役をAにもBにもスイッチできるような自分の作品にぴったりな言葉だと思いました。
――今回の個展で見ることができる作品について教えてください
私は一枚一枚作品を仕上げるのではなく、例えば今日は線画を描くと決めた日は何枚も同時に線画を描いて平行作業をするタイプなんです。描きたいときにできるだけ進めて、一度手放して引いて見てから次に進むのを繰り返すことで作品を仕上げています。
「今回の個展のために何枚描き下ろそう」と最初から決めて描いていたわけではないのですが、結果として今回は20点の新作が完成しました。
個展のときは絵を見てもらいたいという気持ちと同時に良い空間を作りたい気持ちが強いので、新作に限らず、ここに置くと空間がより良くなると感じた旧作も3点ほど展示しています。
――ご自身の作風について教えてください
私の絵は基本的に現実的な物をベースに描いていますし、物の形などをしっかり描いてはいるんですが、よく見てみると不自然な部分があるんです。
例えば、写真だとメインの被写体にフォーカスがあたっていて背景がぼやけていたりするものですが、私の作品は全部が主役になるように敢えて遠近どちらもしっかり描いています。
今回の展示で言えば、階段を上がったすぐの場所に飾ってある風景の絵は虚像であるはずの湖面の方が強調して描き込んであったり、青い面に座っている女の子の絵は上下逆さまにしても成立したり。人がこうだと思っていることを、ちょっとだけ壊したいみたいな願望がありますね。
――そういった作風に至った経緯は
私は中学生くらいから油絵を描いていて、大学でも油画を専攻しました。
大学生のときはこれを描きたいというよりはもっと技術を身につけたいという気持ちが強かったのですが、ひとつ作品を仕上げると無理やりにでもそのコンセプトを喋らされるんですよ(笑)。
そしてみんなの前で発表を重ねていくうちに毎回共通する部分があることに気付き、結局それが自分の描きたいものなんだという考えに至りました。
自分の中に「物と人との境を取りたい」という気持ちがあると分かったので、線を描かなかったり額縁をつけなかったり、当時はボーダレスやシームレスを意識して作品を作っていました。
でも、たとえ自分がボーダレスに描いていたとしても境目は必ずあるわけで、きっと絵を見ている人はそこに線を描いているんだろうし、販売をするときに額装をしてほしいという要望に応えたりするうちに段々と考えが変わってきたんです。
また、ジェンダー問題に通じている知人と話していたときに、境目を作らないことではなくボーダーをきちんと認識した上で両方側から物事を見られることが大切なんだという考えに触れたことも大きな転換点でした。
そこからは逆にどこかに境目があることを意識して線を引くようになって、そうした作品を発表したときの個展のタイトルが「境界線」だったんです。
線の向こう側とこちら側、両方の目線から見ることで、これが主役とかこれが正解とかの押し付けがなくなって、自分が目指している「余白を残した作品」に近づけるのかなと思っています。
――クールな女性をモチーフとしたスタイリッシュな作品が印象的ですが、どのようにして現在のスタイルを築かれたのでしょう
よくいただく質問なのですが、実はスタイルが築けているとは自分では思っていなくてまだまだ模索中なんです。
女性がモチーフの作品が多い理由は、自分が女性なので今のところ一番気持ちを寄せて描きやすいからだと思います。
意思だったり気持ちだったり揺らぎだったり、そういったものが絵を通して伝わると考えているので「これが好きだから描きたい」というよりも「あまり知らないものは描けない」に近いかもしれません。
だから女性を描いてはいるんだけれど、それが女性として見られていなくても良いんです。女性じゃないかもしれないですしね。
スタイリッシュと表現してくださいましたが、自分としてはあまり作品に苦労や念みたいなものは乗せたくなくて、もし乗りそうになったら排除するよう意識はしています。
実際には信じられないくらい泥臭く描いているので、それを知っている友人からは「よくあの状態からこの作品が生まれたね」と言われたりします(笑)。
――たくさんのクライアントワークを手掛けるなかで、定期的に個展を開催されている原動力とは
私は決してすらすら描いて次々と作品ができていくタイプではないですし、毎回個展のたびに焦ってギリギリまで描いているのですが、クライアントワーク以外の作品を自分の気の向くままに描くことをしていないとバランスがとれなくなってくるんです。
また、クライアントワークはお仕事をしてから世に出るまでにタイムラグがあるんですが、見てくれた人の反応をすぐに受け取ることができるのは展示会の良いところだと感じています。
お客さんの声からヒントをもらうことも多いので、アートワークは自分のための大切なアウトプットという感覚です。
――VIVIでの展示の感想を教えてください
レストランやカフェとギャラリーが併設している施設は他にも見かけますが、大抵の場合はレストラン寄りだったりギャラリー寄りだったり、どちらかにウエイトがあることが多いと思います。
でも、VIVIはどちらもしっかり両立している「レストラン/ギャラリー」だと感じたので、今回のコンセプトである「スラッシュ」がうまくはまってくれたという感じです。
なので、今回は吹き抜けでオープンなアートスペースを敢えて個別の空間として成立させるために、壁にテープを貼ったりして箱感が出るような工夫をしてみました。
――VIVIにいらっしゃるお客様へ、オカダさんの作品の楽しみ方を教えてください
視点を変えてみたり、描かれているモチーフの主役を変えてみたり、引いてみたり近づいてみたりして、できれば時間の許す限り同じ絵を眺めてみてほしいですね。
テクスチャ―にもこだわっているので、実物を見てみると作品によって質感の違いも感じていただけると思います。
自分の絵は気分によって見え方が変わるくらい抽象度をもたせて作品に仕上げているつもりなので、もし期間中に何回かVIVIでお食事をすることがあれば、一度見たからいいかな、ではなくてちょっと足を運んで見ていただけたら嬉しいですね。
また、展示とは見てくれる方がいて完成するものだと思っているので、そうやって一度深く潜って「絵/自分」みたいな感じで見てもらうのも面白いと思いますし、自分と絵を切り離さずにその空間に滞在してほしいですね。
――オカダミカさん、ありがとうございました。
取材・テキスト/ライターチームマムハイブ(https://mamhive.com)牛丸朋美