2月3日(土)から3月24日(日)まで、VIVI2Fアートスペースにて西沢直美氏個展【ひかりの羅針盤】が開催中です。
今回は西沢直美氏ご本人にインタビューを実施し、個展の見どころやご自身の作品についてお伺いしました。
profile
西沢直美 Naomi NISHIZAWA @naomi.x.tokyo
箔や岩絵具、膠を使った日本画の技法をベースに、素材感のある和紙、布、油性樹脂など、領域にとらわれない異素材を画面上で組み合わせた複雑な質感表現にこだわりをもって制作。近年では画面全体を様々な箔で彩り、装飾性の高い絵画表現を試みている。
主なモチーフは架空の世界「ひかりの町」のワンシーン。
2019年から作品を発表。以降、パリや都内で個展開催やグループ展、アートフェアに参加。
東京都出身、在住。
▼Exhibition
2019/6月 ウィンドウディスプレイ ウエマツ (渋谷)
2020/9月 FOCUS Art Fair DAYS ARE (ポルト)
2020/10月 FOCUS Art Fair Galerie au medicis,Galerie art and Miss (パリ)
2021/3月 ウィンドウディスプレイ ウエマツ (渋谷)
2021/3月 グループ展 Gallerie de l’Angle (パリ)
2021/6月 FOCUS Art Fair Atelier Richelieu Paris (パリ)
2022/5月 ウィンドウディスプレイ ウエマツ(渋谷)
2022/5月 個展「町と花と雨」Gallery&Café Bar Klein Blue(神保町)
2022/9月 FOCUS Art Fair Carrousel du LOUVRE (パリ)
2023/3月グループ展 現代アーティスト展美さのシルエット 相田みつを美術館(有楽町)
2023/9月グループ展 「Crossing Borders with ART 2023」DDDArt(下北沢)
2024/2月個展「ひかりの羅針盤」VIVI(名古屋)
▼Online solo exhibition
2022/10月 The World of GOLD & SILVER “Stories of another planet”
▼Commission Work
2022/3月 Wineries & Restaurants 瀬戸内醸造所(広島)
その他個人蔵依頼品など
――今回の個展のコンセプトについてお聞かせください
わたしは自分の空想のなかに「金色と銀色の世界」という、わたしたちがまだ知らない惑星で、2つめの月がある世界を持っています。今回の作品は、その世界のさらに小さなエリアである「ひかりの町」という場所のストーリーを基にして制作しました。
そして、ひかりの町で起きているさらにミニマムなお話の「ひかりの羅針盤」を、今回の個展のタイトルとして抽出したかたちになります。
細かなストーリーについては、今回の作品のあらすじをまとめた「ひかりの羅針盤」という図録が置いてあるので、作品と照らし合わせて楽しんでいただけたらいいなと思います。
――今回の個展のコンセプトに至った経緯は
2019年から自分の作品を発表し始めたのですが、ようやく作品に統一性が出てきたと感じていたときに今回の個展のお話をいただきました。
コンセプターのタカ・プリンシパルさんからコンセプトの重要性についてアドバイスをいただいたこともきっかけとなり、元々持っていた世界観を改めてまとめてみることにしました。
そうしたら結局ずっと同じテーマをめがけて描いていたことに気付き、今まで作りためていた作品に新作を加えたら物語が繋がったんです。そうやって点と点を辿っていくうちに、今回の物語が完成しました。
――展示されている作品について
現時点で壁にかけているのは32点ですが、期間中に少し作品を追加するつもりなので全部で40点前後になる予定です。
というのも、わたしは「追伸」というシリーズ作品群を持っているのですが、それは「毎週木曜日の夜にその星の住人が手紙を書いている」というストーリーを基にしています。だから、その世界観に則ると毎週作品が増えていくんですよね(笑)。
わたしはストーリーが出来上がるまではまったく制作できない反面、描きたいものが決まると次のページをめくるように手が動き始めるんです。
――追伸シリーズについて詳しく教えてください
追伸シリーズは、ひかりの町の住人がやりとりしているお手紙のなかにある「追伸」を切り取った作品になります。
追伸って別の綺麗なカードや紙に書いたりすると思うんですけど、なんだかそれに人柄が凝縮されていて、愛おしいというか……キュンとくるものがあるんです。そんな追伸のカードを、自分のお気に入りの綺麗な宝箱の中に溜めているような感覚で制作しています。
なぜ木曜日の夜なのかというと、その時間ってちょっと特別だなと感じていて。週末に向けた高揚感と平日の緊張感との境目で、まだ常識的な感覚もありつつ、あと1日乗り切れば週末だからちょっと夜更かししても大丈夫かな……みたいな(笑)。誰かのことを思いながら、手紙やメールを書くのにぴったりな時間だと感じているので、わたしもそんな木曜の夜にちなんだ作品を作ることにしました。
――作品に使われている画材が印象的です
大学では日本画を専攻していたので、今使用している岩絵具などは当時から馴染みがあった画材です。金属箔に関しては卒業してから作品に取り入れるようになったのですが、学生の頃から興味を持っていました。
というのも、金属箔が使われている宗教画などを見たときに、金属箔を使うことで現実なのか非現実なのかが分からない特別な世界観が出るなと感じていたんです。あとは単純に反射が強いので、装飾的な素材が好きというところもあって、下地としても色としても使用しています。
また、箔押し紙の素材としての信頼感も作品作りに大きく影響しています。
薄く繊細な箔を自ら貼るときは時には息を止めて作業しなければならないほどなのですが、既に箔押ししてある状態を仕入れれば、作業時間の短縮もできますし、表面に塗ってあるコート剤がとても強いので作品の自由度も上がります。
しかも専門の技術職の方が貼っていらっしゃるので、自分にはできないような貼り方のものを作品に取り入れることができるというのも箔押し紙を使う理由のひとつです。
――色々な画材を使うようになったきっかけは
絵画材料開発の製品モニターに携わらせてもらった経験が活きていると思います。
学生の頃は水性の画材を使っていたのですが、モニターのときに油性の画材を使ったり、インテリアなど異業種で使われるような和紙、布などを扱ううちに、工夫をすれば色々な画材をひとつの作品に取り込めることを知りました。
人と違うことができるのがとても楽しく感じたので、あえて絵画材料じゃないものも使って表現をする現在の作風になっていったと思います。
また、動物の毛並みや赤ちゃんの肌、ツヤツヤのアクセサリーみたいな、つい触りたくなるような衝動がわたしの絵の中にあったらいいなと思っているので、色々な画材を駆使して立体感や質感を出す工夫をしています。
――ご自身の作風について
わたしの作風は抽象画というジャンルに属すると思うのですが、自分が作り上げたシナリオの中からモチーフを拾ってエスキース(下絵)を書いています。
それは自然現象の雨や雷だったり、その星の風景や住んでいる人だったり、割と具体的なアウトラインを書き起こしているので、自分としては半抽象画くらいの立ち位置だと思っています。なので、作品の前に立ったときに、この絵のモチーフは何なのかをイメージして見ていただけると嬉しいですね。
例えば、今回展示している「東西南北シリーズ」も一見抽象画に見えると思うのですが、西と東の作品は風神雷神図をオマージュしています。東側は風袋を持っている風神、西側は小太鼓を持っている雷神の要素を作品に落とし込みました。
――VIVIの印象を教えてください
名古屋で個展を開催すること自体が初めてだったので最初は不安もありましたが、信頼しているタカさんからのお話なので必ずいい経験になると確信していました。
そして9月に下見に行ったときに、まず都会の森というコンセプトとわたしの夢見がちな作風とマッチすると感じましたし、硬い印象のホワイトキューブではなく自然な印象を受けたので、世界観を作りやすいなと感じたのを覚えています。あと、一階のレストランの音がなんとなく聞こえてくるのが、まるで午睡から目覚める前の夢と現実の間のまどろみのなかにいるようでとても心地が良くて。その環境が、2つめの月という世界観の作品を見る上でとてもプラスに作用すると思ったので、そんな場所で展示ができることがとても光栄です。
――作品の楽しみ方を教えてください
今回の作品展はかなり物語性が強い構成になっていて、それぞれの作品はそんな物語から抽出したワンシーンを一枚一枚切り取っています。
展示されている作品自体は、形だったり色などの視覚情報でしかないと思いますが、それが鑑賞されている方の中の何かしらのエピソードと重なるような感情があると、その記憶と結びついて優しく寄り添えると思うので、そうなったらいいな……という願いを込めて制作しています。
――来場されるお客さんにメッセージをお願いします
子どもの頃に「今日は寝る前にどれを読もうかな」って本棚に並ぶ絵本の扉絵を眺めていたときのような気持ちで、気軽に見ていただきたいです。
そしてタイトルがついた一枚の作品を目の前にしたときに、何かしら重なるエピソードがどなたかにあるといいなって思っているので、そういうものを探しに来ていただけたら嬉しいですね。
――西沢さん、ありがとうございました。
取材・テキスト/ライターチームマムハイブ(https://mamhive.com)牛丸朋美