6月6日(金)から6月29日(日)まで、VIVI2Fアートスペースにて白石雪妃氏個展【ダダイズム巡回展in 名古屋VIVI kasane 〜襲〜 black and gold】が開催中です。
今回は白石雪妃氏ご本人にインタビューを実施し、個展の見どころやご自身の作品についてお伺いしました。
profile
白石雪妃 @setsuhi_eri_shiraishi
書家。
伝統的な書の世界を伝えつつも独特のスタイルで音楽や美術とのコラボレーションを通し、書道を総合芸術として昇華させる世界観が高く評価されている。
パリをはじめとする海外でも活動し、生演奏との融合から生まれるライブ書道は世界中で多くのファンを魅了している。
2014年FIFAワールドカップサッカー日本代表のユニフォームのコンセプト「円陣」揮毫、2022年NintendoSwich「刀剣乱舞無双」揮毫。金沢21世紀美術館にてパフォーマンス、TEAM JAPAN HOUSEの空間制作、WSパフォーマンスを行った。
(株)資生堂クレ・ド・ポー・ボーテ「6人の女性たち」に選出される。日本オラクル(株)や(株)ドドールなど、壁書画を制作するなど、枠を越えた活動も展開する。

――個展のコンセプトについて
今回の個展は、1910年代半ばにヨーロッパ各地やニューヨークで発生した芸術思想である「ダダイズム」をテーマにしています。
ダダイズムとは、第一次世界大戦下において「理性があるために戦争が起こるのだから、理性を捨てよう」という思想に基づき、これまでの芸術を疑って壊すというダダイストたちの反芸術運動のことを言います。
そのため、今回の個展では「平面の紙に毛筆で字を書く」という従来の書道の概念を覆すような作品でダダイズムを表現しています。

ダダイズムの作品は、例えばトイレの便器にサインを書いただけのマルセル・デュシャンの『噴水(泉)』をはじめとする「何をもって芸術とするのか」と問いかけるような衝撃的なものが多いんです。
でも、ダダイズム自体が8年くらいで廃れてしまったように、わたしも作っているうちに限界を感じてやっぱり元に戻りたいなと思ったり、色んな葛藤がありました。
それでも、美しさを求めていない作品に対しても美しいと思えるようになったり、そもそも今までの自分の作品に潜んでいたダダの要素に気付いたりなど、新境地を垣間見ることができたと思います。

――ダダイズムというコンセプトに至った経緯について教えてください
わたしは書家として活動をしていますが絵画から影響を受けることも多く、何年か前から「絵画の世界を書道の世界で表現をしたらどうなるか」という試みに挑戦しています。
最初はマーク・ロスコやピカソなど好きな画家の作品からインスピレーションを受け、オマージュのようなかたちで個展を行っていました。
そこからもう少し踏み込んでいくうちに、キュビズムやフォーヴィズムといった概念に触れ、そうした視点や角度を書道の世界で置き換えて表現をするように。キュビズム、フォーヴィズムというテーマで個展をやってきて、その流れで今回はダダイズムに辿り着きました。

――今回VIVIで見られる作品について教えてください
巡回展の初回に東京青山のギャラリーで展示した作品のおよそ半数と、名古屋での展示のために用意した新作を展示します。
また、名古屋での展示は「 kasane 〜襲〜 black and gold」という副題のもと、ダダイズムで見られることが多いコラージュ作品や、墨と金にフォーカスした作品も新たに加えました。
以前ライブツアーで名古屋を訪れた際にVIVIにお邪魔したことがあったので、お店の雰囲気や名古屋という立地も意識した作品もあります。

――書家となったきっかけは
子どもの頃からお習字教室に通っていて、幼稚園生くらいのときには将来お習字を教える先生になれたらいいなと思っていました。
書くことが好きでずっと続けているうちに「書道」という領域に入り、師範の免許も取得しました。
それから10年ほど師匠について学びを続けましたが、徐々に自分の表現を発表したいという気持ちが芽生え、書家として独立をすることに。それからは絵画や音楽など、あらゆるものから影響を受けて現在の作風に至ります。

また、そうした能動的なインプットとは別に、クライアントからいただいたさまざまなご依頼も、自分の作品の幅が広がった理由のひとつだと思います。
ご依頼のなかには紙では実現できないこと、墨では実現できないことなどもありましたが、どうにか工夫をして制作することで得るものも多くありました。
創作を広げるなかで「書道とは何だろう」という疑問を持つこともありましたが、絵筆ではなく書道に使う毛筆で自分の線を書くことさえできればそれは書家としての自分の表現であると今は解釈しています。

――音楽とのコラボレーションが印象的です
以前、番組で「ジャズの即興性と書道の即興性について」というテーマで対談をしたことがありました。
その際に、ジャズの巨匠マイルス・デイビスのアルバムのライナーノーツに、名ジャズピアニストであるビル・エヴァンスがジャズと日本の視覚芸術の共通性について言及していることを知り、衝撃を受けたんです。
確かに、一回性であることや脳から筋肉に指令がいく瞬時の反応、鍛錬が必要であることなど、多くの共通点があると気付かされました。
その対談のあと実際にコラボレーションをしたことがきっかけとなり、そこからジャズミュージシャンの方とライブパフォーマンスをするようになりました。

――VIVIにいらっしゃるお客さんにメッセージをお願いします
在廊していると、積極的に話しかけてくださる方もいらっしゃれば、たくさん質問をしてくださる方、何も言わずに静かにじっと見てくださる方など、お客さまによって作品との向き合い方はそれぞれだなと感じています。
わたしは思うがままに自由に鑑賞してくださるのが一番だと思っているので、敢えてこちらから積極的に説明しようとはしないのですが、もし疑問などがあれば遠慮なくなんでも聞いていただけたら嬉しいです。
――白石さん、ありがとうございました。
取材・テキスト/ライターチームマムハイブ(https://mamhive.com)牛丸朋美