INTERVIEWインタビュー
INTERVIEW

10

鈴木掌氏 インタビュー

インタビュー

10月3日(金)から11月2日(日)まで、VIVI2Fアートスペースにて鈴木掌氏個展【atomic jungle】が開催中です。
今回は鈴木掌氏ご本人にインタビューを実施し、個展の見どころやご自身の作品についてお伺いしました。

profile

茨城県出身。画家/アートプロデューサー。
アフリカ・ルワンダで教育支援「heART」を立ち上げ、200人以上に洋裁や絵画を指導し、多くの若者を貧困から救う。
帰国後は「美しき、挑戦者たちへ」をテーマに強く美しい女性像を描き、鮮やかな色彩とポップな作風で注目を集める。
外務省アフリカ部長室、駐日スイス大使公邸、JR大塚駅北口壁画など、国内外での制作・展示多数。
「ARTで世界をつなぐ」ことを理念に、教育支援や作品活動を通じてエネルギーを与え続けている。

――個展“ atomic jungle ”のコンセプトについて
「atomic jungle」という題名は私がまだ画家になる前、ルワンダで暮らしていた時に考案していた言葉から引用しました。

ルワンダで暮らしてみると、ルワンダの人々は虐殺の歴史の関係もあって、あまり自分を出さない、引っ込み思案な性格であることに気付きました。
そんな人々が、自分の思いや考えを自由に出せるような空間を作りたくて、ルワンダで暮らして5年目に音楽バーを開いたんです。
ポジティブなエナジーに溢れ、訪れる人々の魂の輝きが表れるような空間にしたいと考えたときに、お店の装飾に極彩色を使うことを思いつきました。
つまりatomic jungleとは、人々をエンパワーメントしたいという想いを込めて作った極彩色の空間を指しています。

そして今回は久々に名古屋で個展を開催するにあたり、初心に戻るという意味を込めてこの名前を題名にさせていただきました。
私の作品のほか、ルワンダの子どもたちの作品も並んでおり、全部で60~70点ほど展示しています。


――今回はライブペインティングも実施してくださいましたが、お客さんの反応はいかがでしたか
オープニングパーティには多くのお客様に足を運んでもらい、温かいお言葉や反応をいただくことができてとても嬉しかったです。
私のことを初めて知っていただく方たちも、トークイベントの際に熱く耳を傾けてくださって、本当に素晴らしい出会いに恵まれた機会となりました。


――鈴木さんの作品で描くモチーフについて教えてください
私がモチーフとして描くものは、基本的に「目がある生き物」という縛りがあります。
というのも、私が最も表現したいのは“魂感”に溢れるというか、生きているものの美しさみたいな部分なので、やはりそれが一番表れるのが目なのかなと。そんなモチーフたちを、アクリル絵の具の極彩色を使って描いています。


――特にライオンが印象的です
ライオンをよく描くのには、実は明確な理由があります。
私がルワンダで暮らして5年目のとき、ある事件に遭ったことで精神が参ってしまい、日本に帰国したんです。しばらくはぼんやりと絵を描くなどして、あてどなく暮らしていた時期がありました。

そんななか、ある方と出会ったときに「ライオンの絵を描いてほしい」と言われ、その場にあった画材で描き上げたところ、とても気に入ってくれて購入していただいたんです。
それからも彼のコミュニティの方々に紹介してもらって、みんなが誰かの誕生日のときにお金を出し合って私の絵を買ってくれたりするうちに、どんどん自分の心が回復していって。誰かが自分の絵を買ってくれたことで、自分の存在を認めてもらったような気持ちになりました。
また、私を救ってくれたその方が「鈴木掌は太陽みたいだ」って言ってくださったこともあり、それ以来“ライオン”と“太陽”は自分にとって特別なモチーフになりました。
ライオンと太陽を掛けあわせてできた作品は、アトミックサークルという題名で描いています。

――そもそも、ルワンダへ行ったきっかけとは何だったのでしょう
私は先祖に即身仏を持つ家系に生まれ、掌(つかさ)という名前は「手のひらでこの世を司るような偉大な人間になってほしい」という家族の願いを込めて名付けられたそうです。
偉大なことって何だろうと幼い頃からずっと考えていたのですが、高校生のときにふと何かしらの“新しいジャンル”を誕生させたいと思うようになりました。
そして当時自分が好きだったもののルーツのほとんどがアフリカにあったことから、アフリカに行きたいという気持ちが芽生えました。

そして社会人3年目のときに海外青年協力隊に応募したところ、ルワンダ派遣が決まったという経緯です。
当時は母校であるファッションの専門学校で助手教員をしていたので、ルワンダでは洋裁を教える活動をしていました。3年目からは、生活に困っているシングルマザーたちに縫製の技術を教えて職を得られるようにする外務省のプロジェクトの一員として2年間働いていました。

※ルワンダの当時のお写真があればお貸しください

――最後はあまり良い思い出がないはずのルワンダに、また訪れようと思ったのはなぜですか?
先ほどお話ししたような出会いがあり、画家になろうと決めてから稼げるようになったのは正直なところ割と早く、半年くらいでもう画家一本でやっていけるようになっていました。
それから日本でアーティストとして順調に活動していたのですが、売れてきた3年目くらいの段階でふと、敗れ去ったルワンダに自分の魂を置いてきているような感覚を覚えたんです。

その失った魂を取り戻さなければ次のステップに進めない気がして、もう一度ルワンダに行く決心をしました。
それからある子どもたちに絵を教えたことが現在のheARTの活動につながっているので、本当に良い出会いに恵まれたと思います。

また、かつて縫製を教えたシングルマザーの方々とも再会したのですが、綺麗なお化粧をして本当に見違えるほどキラキラと輝いていたので、自分がやってきたことは無駄ではなかったと思えたことも、ルワンダを再訪して得たもののひとつですね。


――「heART」の活動について教えてください
heARTとは、貧しくて教育も職業訓練も受けられないストリートチルドレンなど未成年に絵を教え、彼らの作品を買い取って販売するプロジェクトです。継続的にプロデュースすることで、いずれは彼らが世界的なアーティストへと成長してほしいと願っています。

このプロジェクトは、自分がかつて“絵を買ってもらう”という行為で救われた経験から、自分も絵を見て感動した際に「君の才能は素晴らしいよ」という意味を込めて絵を購入したことから始まりました。
初めてとある子どもの絵を買ったときに、その場にいた家族全員が泣いて抱き合って喜ぶ姿をみて、やはり昔の私と同じように彼らも救いを感じてくれたんだなと思い、これをライフワークにしていこうと決めました。

ただ、絵を教えると言っても基本的には手も口も出さず、自由に描いてもらうことをモットーにしています。
そして、作品を買い取るときは自分がその場で買い取り金額を決めているのですが、その作品の完成度によってあえて金額の差をつけています。
社会に出ると平等なことなんてひとつもないですし、特にアフリカでは稼いで生きていくのはとても大変なこと。子どもたちが社会に出てから訪れるであろう荒波に負けてしまわないよう、そこはちゃんとシビアにやっています。

――結果として支援や救済につながっている活動ですが、その一方で鈴木さんのお話を伺っているとご自身は社会貢献や奉仕という意識ではないように感じます
そうですね。実際にこの活動は充分な等価交換だと思っているので、子どもたちと対等だと思っています。
私自身、子どもたちのプリミティブな色彩感覚やタッチに非常に影響を受けていますし、純粋に子どもたちの作品に感動しています。

そして何よりも、自分に頑張る理由を与えてくれたことが大きいですね。
あの子たちがいるから、堂々と高い金額で作品を買ってもらって、そのお金で活動をするんだっていう動機だったり、出会った頃は表情が歪んでいた子どもたちの顔が日に日に整っていく様子を見られる喜びだったり。
一度は挫折をして自信を失ってしまった自分が、この世に存在する意味を子どもたちに与えてもらっていると感じています。


――最後に、鈴木さんの作品の楽しみ方やVIVIにいらっしゃるお客様にメッセージをお願いします
私の作品も、子どもたちの作品も、とてもポジティブなエナジーで描いています。
なので、あまり難しいことを考えずに、頭を空っぽにして、ぱっと絵を見たときの素直な感覚で楽しんでいただけたらいいなと思っていますし、ぜひお会いしたときに感想を教えてもらえたら嬉しいですね。

――鈴木さん、ありがとうございました

RELATED

関連記事

PAGE TOP