INTERVIEWインタビュー
INTERVIEW

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アーティスト 小原若菜氏インタビュー

インタビュー

4月5日(土)から4月27日(日)まで、VIVI2Fアートスペースにて小原若菜氏個展【A ROOM FOR DREAMS】を開催。
今回は小原若菜氏ご本人にインタビューを実施し、個展の見どころやご自身の作品についてお伺いしました。

profile

小原若菜 @wakanaobara_
1996年愛知県生まれ
2019年に名古屋芸術大学を卒業後、版画アーティストとして愛知県を拠点に活動。
2022年に村上隆が主催するアートイベント「GEISAI#21」でくらやえみ賞を受賞し、その後は愛知、東京、タイなど国内外で個展を開催。

自身の作品は無意識のうちに記憶に残っている心象風景を部屋に見立てて表現し、
その過程において、遠くの何かとの繋がりを感じ他者や自身の解放を図ることを信条としている。

個展
2022 「写し変える風景」栄三越ARTE CASA /愛知
2022 「King of fruits」CO&CO NAGOYA / 愛知名古屋
2022 -2023「Confluence_合流地点」Hidarizingaro / 東京 中野ブロードウェイ
2024 「温度-temperature-」織部亭 / 愛知
2024 「MOUROUMOKO」Galerie Monument / タイ バンコク

――今回の個展のコンセプトについて

わたしは普段、自分の夢や無意識から浮かび上がる心象風景を「ひとつの部屋」として表現しています。今回の展示場所であるVIVIさんのギャラリーは2階にあって、その位置関係が、脳の奥にある“夢の部屋”のように感じられたんです。それで「A ROOM FOR DREAMS(夢のための部屋)」というタイトルをつけました。

展示している作品のうち約半分は新作で、残りは今回のコンセプトに合う過去作を選びました。会場全体が、まるで私の描く絵の中に入ったような空間になるよう意識しています。

――版画(リトグラフ)で表現するようになったきっかけは

私は絵だといつまでも描けてしまうので、技法によって終わりを見せてもらえるものがありがたくて……最初は陶芸に興味を持つことから始まり、最終的に版画を専攻しました。

版画は、区切りをつけないと次のステップにいけないですし、刷ってみないとどんな作品になるのか分からないけれど、刷り終わったらもうそれで完成となってしまう。でもこれが、わたしにとってはちょうど良い加減の制限になって心地良かったんです。

あと、わたしは結構体力があるほうで、体を使って描くのが好きなんです。版画は体力も使うし、肉体の直接的なパワーをそこに注げるのが楽しいですね。

また、版画作品がメインではありますが「これを作りたい」という自分の欲望に従ってペインティングや立体も制作しています。特に立体は自分の世界を現実に出すことがとても面白いと思ったので、今後はもっと大きなオブジェ制作にも挑戦したいなと思っています。

――作品のモチーフについて

わたしの作品に登場する風景や人物は、ほとんどが自分自身の投影です。
目に映るものをそのまま描くのではなく、無意識に蓄積された心象風景、記憶や感覚の断片をそっとすくい上げるように描いています。

外から見た世界を模倣するのではなく、自分の中から自然に生まれてくる「本物」を捉えたい。
そのため、モチーフは意図的に選ぶのではなく、ふっと心に浮かんだものや、自分の中で静かに息づいている存在を描いています。

――対面している絵が多い印象です

人前で声を出すことができなかった幼少期、家で飼っていたワンちゃんと自分が喋っている場面を描くのが好きだったんです。
しばらくワンちゃんと自分が向かい合っている絵を描いていましたが、ワンちゃんの記憶が薄れていくなかで無理やり描き続けると偽物の犬になってしまうと感じたので、他のものを描くようになりました。でも、何かと何かが会話をして何かが生まれることに面白味を感じているので、今も対面している場面を描くことが多いです。

――VIVIでの個展の感想は?

展示って結構短い期間で終わることが多いんですが、VIVIさんでの展示は1ヵ月あるので、自分の居場所がずっとそこにあるような不思議な感覚があります。

お客さんからは、やはり版画という制作方法へのリアクションが大きいと感じたので、わたしの作品を通してリトグラフをたくさんの方に知っていただけたのは嬉しいですね。


――Wakaさんが思う、版画の魅力とは

わたしにとって版画のいちばんの魅力は「空気感」と「奥行き」にあります。
リトグラフで刷り上げると、インクが紙の目ひとつひとつに細かく入り込み、色に自然な奥行きや深みが生まれます。
それが、夢や無意識といったはっきりと形にならない世界を描くときに、私にとってとても心地よく感じられるのです。

版画は、刷り終わるまでどんな仕上がりになるかわからない不確かさがあります。
でもその不確かさの中にこそ、自分が描きたい「掴めないもの」や「未来の気配」が自然に宿るような気がして、わたしは版画という技法に強く惹かれています。

――Wakaさんの作品の楽しみ方を教えてください

わたしの作品は、はっきりとしたテーマや言葉から始まるのではなく、いつも心の中に漂っている曖昧な何かをじっと見つめながら描いています。

それが何かは自分でも明確にはわからないけれど、曖昧でつかみきれないものの中に、大切な気配や未来の兆しのようなものを感じています。
その見えそうで見えないものを、かたちにしようとする感覚を大切にしながら制作しています。

だから、作品を見るときは、決まった意味を探そうとせず、気になったかたちや色、ふと惹かれた部分を、そのまま自由に味わってもらえたら嬉しいです。
その中に、自分自身の中にある静かな感覚や、小さな可能性に気づける瞬間があるかもしれません。

わたしの絵は、喋れなかった過去の経験という、少しマイナスに思えるできごとから生まれています。
けれど、それもまた、自分だけのユニークなものとして捉えたい。そんな想いから、私はいつも「いい予感のする部屋」を描いています。

人間の内側には、生々しさや暗さを持っている部分もあり、わたしはそれもそのまま描いています。
だから、ときどき少し不気味だったり、怖い印象を持たれることもあるかもしれません。
でもその奥には、良いことや面白そうなことが起こりそうな未来の気配をそっと含んでいます。
それを前提に見ていただけたら、また印象も変わって、楽しんでもらえるんじゃないかと思います。

――Wakaさん、ありがとうございました

取材・テキスト/ライターチームマムハイブ(https://mamhive.com)牛丸朋美

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