3月6日(金)から3月29日(日)まで、VIVI2Fアートスペースにてサッカラーニ愛氏個展【春の風と霧】が開催中です。今回はサッカラーニ愛氏ご本人にインタビューを実施し、個展の見どころやご自身の作品についてお伺いしました。
profile
サッカラーニ愛 / Itoshi Sakhrani
@itoshi.sakhrani
1987年・東京都出身
幼少期より油絵を描く父の影響で絵画に親しむ。日本・イギリス・インドにルーツを持ち、インターナショナルスクールと公立学校の双方で学ぶ。さまざまな職業を経て、2020年より作家活動を開始。
日々の中で積み重なる時間や記憶を捉え、画面の構造とストロークを重ねながら、その中からかたちが立ち上がってくる作品を制作している。

――今回の個展のコンセプトについて教えてください
今回の個展は、過去と現在が同時に存在しているような感覚をテーマにしています。
今見えているものも過去の積み重なりの上にあって、その中で次に渡っていくものが少しずつ生まれている。その重なりの中の一瞬を切り取っています。
「春の風」は、新しいことのはじまりや前に進む力のイメージで、「霧」は過去から続いているものや、はっきりと分けられない状態を連想させます。
その両方を並べることで、過去と現在が同時にある感じを表現しました。
今回は新作8点を含めて、30点ほど展示しています。

――作品のなかでも代表的なシリーズ「祝祭」について
祝祭は、昨年から描いているシリーズです。
画面の縦の軸は、上が先祖、下が子孫で、真ん中が今の自分たちです。過去から今、今から未来へと続いていく流れを一本の軸として描いています。周りにある円や線は、家族や関係性のようなものを表しています。

僕にとってこの縦軸は家族ですが、地域や自分が関わってきたものも含めて、替えの効かないものは全部こっち側にあると思っています。
その反対に、お金や肩書きみたいに比較の中で価値が決まるものは横軸です。横軸は社会の中で必要なものなんですけど、それだけを中心にしていると、上が出てきた瞬間に自分の価値も揺らぎやすい。それゆえに満たされにくい構造だと思っています。
縦軸のほうは比較がないので、自分の中で自然と満たされる感覚が出てくる。そこに立つと、次に渡していこうという意識が出てきますし、今あるものも全部、前から渡されてきたものだと実感できるようになります。
僕はそれを遺伝子の大河ドラマみたいなものだと思っていて、自分はその中の一登場人物という感覚なんですよね。そうやって続いてきた日常そのものが「祝祭」なんじゃないかと思って、このシリーズを描いています。

――画家になるまでに色々な職業を経験されてきたと拝見しました
小さい頃は周りを見て動くことが多くて、自分より他人を優先してしまうところがありました。
それを見ていた父に「自分のやりたいように生きろ」「強いやつと闘え」と言われて、先輩と喧嘩をするようになり、その流れで格闘技のトレーニングを始めました。そのまま格闘家になろうと思っていたんですが、途中で続けることができなくなりました。
そこからはレンタカー屋や証券会社、バーテンやタクシー、カレー屋などもやりました。どれもある程度はうまくいくんですが、長くても4〜5年すると辞めてしまう。
30歳を過ぎた頃に、さすがにそれだと意味がないなと思って、じゃあ自分が辞めないものは何かと考えたときに、絵と格闘技があるなと思ったんです。その中で続いていたことが絵だったので、結果的に画家になりました。
格闘技で身についた、頭で考える前に身体が反応する感覚は、今の制作にもかなり残っていると思います。先に決めてから絵を描くというよりも手が先に動いて、後から意味が見えてくることが多いですね。

――そうして飛び込んだ画家の世界で、ご自分のミッションとは
ミッションというほど大げさなものではないですが、自分の在り方も含めて伝わるものがあればいいなとは思っています。
何もかもを先に決め切らなくても、その余白の中でしか出てこないものもあると思います。
例えば制作でも、あまり決めすぎていないときの方が、結果的に自分でも予想していなかったものが立ち上がることがあるんです。
夜中に描いていて、気づいたら時間が飛んでいて、自分でも覚えのない形ができていることがある。そういうときは、自分で作っているというより、周りのものと噛み合って出てきている感覚に近いですね。
僕は作品に、ひとつの分かりやすいメッセージを込めようとはしていません。
ただ、普段どういう感覚で生きているかは、そのまま出ると思っています。
自分だけで完結しようとすると、あまりうまくいかないんですよね。自分は他人から受け取ったものの上で生きている感覚の方がしっくりくるので、そのまま流していく方が自然だと感じています。
また、人も自然の一部だと思っているので、都市も人工物も含めて切り分けずに見ています。そうした感覚も、そのまま作品に出ていると思います。

――作品をもっと楽しむためのヒントを教えてください
今回は「祝祭」のほかに「太陽と雨」や「祝祭日」、立体作品も展示しています。

「太陽と雨」は、絵の具を何層も重ねて削っていく中で、地層のような感じが出てきたことからつけたタイトルです。制作していた時期の気候も影響していますし、読んでいた本からの影響もあります。

「祝祭日」は、祝祭の考え方を一日に落とし込んだものです。花をあえて描かないことで、見る人がそれぞれの一日に重ねられるようにしています。

大きい絵を数ヶ月かけて描いたあとは、しばらく絵を描きたくなくなるんです。そういうときに、手でこねるような感覚で作っているのが壁に掛ける立体のシリーズですね。
VIVIでは「メタルブルーム」という名前で展示していますが、次からは「胎(Womb)」に変えています。

石と記憶は、息子が拾ってきた石を使っています。静かだけど強いものを、そのまま置くような感覚で作っています。
分かりやすいものと、そうじゃないものが混ざっていますが、今回はそのまま出しています。その方が自分の状態に近いので。

――VIVIのお客さんにメッセージをお願いします
肩肘張らずに見てもらって、なんとなく好きだなと思ったものを、そのまま持って帰ってもらえたら十分です。
説明は後からいくらでもつきますが、最初に「これだな」と思った感覚の方を、自分は信用しています。
あとは、きれいに整っていなくても、動いていれば意外となんとかなるという感覚も、どこかで伝わればいいなと思います。
――サッカラーニさん、ありがとうございました。
取材・テキスト/ライターチームマムハイブ(https://mamhive.com)牛丸朋美