INTERVIEWインタビュー

INTERVIEW

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アーティスト 真弓将氏インタビュー

インタビュー

2月1日(土)から2月23日(日)までの期間中、VIVI2Fアートスペースにて真弓将氏による個展【INCARMATION】が開催されています。

今回は真弓将氏にインタビューを実施し、今回の個展の見どころやご自身の作品についてお伺いしました。

profile

真弓将 @mayusyonokimochi

書道をバックグラウンドにした作家活動のテーマは「滲み出る生命」。

文字とは人間の歴史であり、生命そのもの。生命あるものには血や鼓動といった色や音があるとし、その生命本来の輝きを現すべく墨だけでなく、油絵具、アクリル絵具も使っている。濃厚に塗り込められた絵具は血肉となって現れ、ここに情報手段という概念から解き放たれた文字の生の原理性が浮かび上がる。

書き写し、伝え、字体そのものに美を見出す人間が日々の営みの中で築き上げた漢字。

これをしたためる書は物事をワンフレーズで言い切ってしまう「発信」ではなく、言葉にできない声に寄り添う「受信」行為とする。思想や信条の違いから分断が進む現在、権力や社会的通念など私たちを縛りつけるものを否定し、他人と言葉を交わし協働しながら希望を見出していくアナキズムとして文字を捉える。

◯過去の実績

2022  YUGEN gallery SOLO 「Monologue」

    KYOTO MEDIA SHOP SOLO 「PAINTINGS」

2023  YUGEN gallery SOLO 「quiet passion」

   《美術の窓》5月号企画「画廊が選ぶ注目の新人72」掲載

2024  松坂屋名古屋店 6階VIVI ARTproject SOLO

――今回の個展のコンセプトについて教えてください

今回の個展は「人も言葉も自然に還る」というテーマのもとで展示をしています。

このテーマには、去年の8月に2日間京都の山奥に籠って作品を作っていた際に辿り着きました。
山奥に籠ることで物理的に自然に帰った自分に対して、自然から「おかえり」と言われているような感覚があったんです。
その体験から、一人ひとりの中に眠る「裸の言葉」に回帰できるような展示をしたいと思い、描いたのが今回のメインとなる2作品です。1日目は山の中、2日目は川辺に行き、それぞれの場所で制作しました。

タイトルである「INCARMATION」は翻訳すると「受肉」、つまり目に見えないものが見える形となって現れることを指します。
僕のルーツは書道にあり、幼い頃から目にする文字が血や肉を帯びているように感じていました。そうした経験から、生命体としての文字を表現したいという想いを込めて、「INCARMATION」というタイトルをつけました。

さらに「目に見えることがすべてではなく、目に見えないところにも真実は隠されている」という僕が伝えたい想いも表現しています。

――VIVIで鑑賞することができる作品について教えてください

今回の個展では、新作54点と結構な点数を用意しました。

実は2年前に東京での展示を終えてから、内省というか、自分のコンセプトを改めて深く考えたくて2年ほど籠っていた時期があったんです。再起を果たす場所はVIVIが良いと思っていたので、この2年で描き溜めてきた作品を展示させてもらいました。

――学生時代を野球に捧げた球児から、独学で学んだARTの世界へ飛び込んだ背景とは

僕は中学校の頃、幼いながらに「もっと世の中を良くできないか」と考えていました。そのために選んだツールが野球でした。今思えば若気の至りなのですが、野球でなんとか世の中変えてやるんだと本気で思ってやっていたんです。その頃に覚えた心を燃やす感覚というのは現在も身体が覚えているんです。

ただ今だから言えるんですが、本来社会に出てからぶち当たるいくつもの障壁は、野球をやっている13年間にすべて与えてもらったと感じているくらい大変な世界でした。

仲間たちと全力で白球を追いかけるなんて美談にされがちですが、蓋を開けてみれば内戦や派閥に溢れていて。それでも一緒にプレーするときは手を取り合ってやっていくしかないという境遇のなかで過ごしていたので、今思えば僕の性に合わない。現在あまり人付き合いをしないのはそのときの反動とも言えるかもしれません。

そしてアーティストに転身をした今、集団のなかで抑えていた自我、自分が表現したいものの核心へ、今ようやく迫り始めたかなという感覚です。

――書道家ではなくアーティストを選んだ理由とは

幼少の頃から書道を始めたのですが、実はそれよりも先に絵を描いていたんです。

母親が毎週仕事帰りに絵描き帳を買ってきてくれたので、そこに風景だったり映画のシーンだったり、見たままのものを描くのが好きでした。

だから、僕のアイデンティティを辿っていくと絵と文字は気付けば自然に混ざっていたという感じなんです。作品のなかに絵と文字を意図的に混ぜたわけではなく、絵が文字になっていって、文字が絵になっていくような。文字を書くときも絵を描くときも脳の同じところを振動させているので、どちらも感覚的に表現しているのだと思います。

――色々な作品に登場する、不思議な線の模様が印象的です

あの模様は、新型コロナウイルスのパンデミックで世界が止まっていた時期に生まれました。

僕は当時まだ大学で野球をやっていて、寮生活を送っていました。一切の外出を禁止され、1ヵ月くらいずっと寮の部屋に籠っているうちに段々と鬱のような状態になってしまって。ゴミ溜めと化した部屋のなかで、テレビから流れる悲惨なニュースを耳にしているうちに気が狂いそうになり、その辺に落ちていたノートに言葉にならない感情を書き殴ったものがあの模様でした。

冷静になってあの模様の意味を考えてみたときに、言葉にしたくても言葉にはできなくて溜まっていった想いなのだと解釈しました。受精する前の卵のようなもの、とも表現しているのですが、この先意味を持つ言葉が生まれてくる線。あえて意味を成さない線は、現在ほとんどの作品に用いています。

――では大学では野球と並行して、独学でアーティスト活動をされていたということですか?

大学在学中からレンタルギャラリーを借りて個展を開いたりもしていました。

実は高校のときも僕の書いたノートを貸した人の間で「なんかとんでもない文字が書いてある」と噂になったりもして(笑)。同級生の誕生日にオリジナルカードを描いて渡したりしてました。

そんな感じで、ずっと自分の中にあった個性が、徐々にひび割れ始めたなという感覚があって。
でもそれを意図的に破ろうとするのではなく、自然な時間の流れのなかで無作為に割っていきたいなとは思っています。

――VIVIでの展示の感想を教えてください

最初にVIVIを訪問したきっかけはオーナーの杉本さんの共通の知人からのご紹介でした。

そこからアーティストであるタカ・プリンシパルさんをご紹介いただいて、東京での展示だったり他のお仕事に派生していったので、今回VIVIで個展を開けたことはとても嬉しく感じています。

オープニングパーティーで実施した現代アーティスト・長尾洋さんとの対談であったり、インタビューの映像を残したりなど、今まではやって来なかったけれど絶対やった方がいいなってことをできる限り盛り込みました。戦の感というものは戦場でしか得られないな、ということを今回感じましたね。

そして普段ギャラリーでの展示っていうのは、ある程度僕の作品や芸術・ARTに興味があるお客さんがご来場されるんですが、VIVIのお客さんは展示していること自体知らずにご来店される場合もあるので、そういった方々との対話というのはとても新鮮でした。

本来はARTって気合いを入れて見に来るというよりも、ふらっと立ち寄れる場所にあることも大切なんじゃないかなと考えているので、子どもたちでも純粋にARTに触れられるような場所が増えていったらいいですね。

――真弓さんの作品の楽しみ方のヒントを教えてください

僕がまだ文字の意味が分からないときに感じた、街にある看板の文字の造形的な美などを表した作品なども展示してあります。なので、ARTの文脈だったりは一旦考えずに、踏まえてはいるけども、感覚的童心に帰って裸の心で作品と対峙していただけたら嬉しいです。

そして今回の展示を通して感じたのは、ARTの存在意義は魂の救済だということです。
荒れ狂う時代に疲れ切った魂に寄り添うことができたら僕はもうそれだけでもいいと思っています。

人生という川を必死で泳いでもうまくいかなかったときに流れに身を任せてみたら、流れ着いた場所に僕の作品があった……という出会いがあっても面白いんじゃないでしょうか。

――真弓さん、ありがとうございました。

取材・テキスト/ライターチームマムハイブ(https://mamhive.com牛丸朋美

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