INTERVIEWインタビュー

INTERVIEW

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彫刻家 淺野 健一氏 インタビュー

インタビュー

現在2Fのアートスペースにて開催中の淺野健一個展「phantázō」。

今回は淺野健一氏ご本人へのインタビューを通し、活動15周年記念ともなる本展の見どころについてお話を伺いました。

<プロフィール> 
淺野健一
彫刻家。伝統技法からデジタルスカルプトまで自在に操る。
「憑依」「一体化」をテーマにしながら、木彫にポップカルチャー的要素を融合させ、現代アートヘと昇華させる。
近年は神社の御神像も手掛ける一方、ロボットクリエイターと協力し現実世界のアバター「憑き者」も発表。稲沢市在住。

今年11月18日から12月10日まで東京のDUB GALLERY AKIHABARAにて、淺野健一氏の約5年ぶりとなる大規模な個展「phantázō」が開催されました。

本展では「glitch(コンピュータのバグ)」を可視化した、これまで体験したことのないリアルとバーチャルの境界線を彷徨う空間を創造。また、淺野氏の新作と旧作が登場するゲーム体験スペースも設置され好評を博しました。

そして2021年12月17日からは、VIVIアートスペースにおいて「phantázō」の名古屋展示が始まります。

ーー展示される作品の見どころは。

今回はデジタルスカルプティングの技術を用いて、本来ならコンピューターやゲーム上でしか発生するはずのないバグ「glitch(グリッチ)」が起きた状態のものを彫刻作品として創造しました。

グリッチの部分は、パソコン上で造形する過程で実際にエラーを起こさせることで生まれた偶発的なかたち。一体一体の違いを楽しんでほしいですね。

ーー今回の個展で工夫された点はありますか。

自分の作品を3Dデータとしてパソコンで扱うようになってからは、汎用性が高くなったと常々感じていました。

そのなかのアイディアのひとつとして生まれたのが、本展で展示したゲームです。

友人である映像クリエイター舟橋尚仁氏の協力を得て、自分が創り出した世界観を共有できるような仮想空間を作りました。

新作だけでなく過去の作品もゲームに登場するので、名古屋での展示が実現すればぜひプレイしてみてください。

ーー彫刻家としてのルーツを教えてください。

高校から美術科に進学し、高校3年から彫刻を選択。大学でも必修科目として彫刻があったので、当時は木や石など色々な素材を扱っていました。

本格的に木彫を学んだのは、大学院のときです。仏像や文化財を修復する授業があり、そこで仏像などの文化財がいかに木の特性を巧みに活かして作られているかを知りました。

そうした古典技法をしっかりと理解することで、こういうバックボーンがあれば続けられるなと感じたのが、木彫を始めたきっかけです。

大学を卒業してからも仏像修復に携わっていたので、そこで身につけた技術を応用して自分の作品を作っていました。

作品のモチーフには格闘技、G.I.ジョーのフィギュア、能面、甲冑……自分の好きなものを全部入れ込んでいますね。今まで木彫を専門にやってきましたが、数年前からパソコン上で作品をモデリングする「デジタルスカルプティング」を取り入れるようになり、「phantázō」では3Dプリンターを使用して樹脂素材で作られた作品も展示しています。

ーーVIVIに展示することになった経緯や、VIVIの印象について。

VIVIアートディレクターのタカ・プリンシパルさんとはhpgrp GALLERY TOKYOでの個展以来の知人なので、タカさんの紹介がきっかけですね。

ギャラリーとカフェだったり、飲食店と雑貨という組み合わせはよく見かけますが、食事とアートというのはあまりないので面白い空間だなと思いました。

ーー最後に、来店される方にメッセージをお願いします。

有機的な造形と、無機質なバグの融合した彫刻を楽しんでいただけたらと思います。

ーー淺野健一さん、ありがとうございました。

ぜひこの機会にVIVIアートスペースに訪れ、淺野健一氏の世界をご堪能ください。

■淺野健一氏による解説
シミュレーション仮説というものがある。
この世界は高度に発達した文明によって作られたシミュレーションでバーチャルな世界なのではないか、という仮説。私も常々、今のこの肉体は借りてるだけという感覚になる時がある。この仮説に基づくなら、人間が想像してきたものは全てただの情報に過ぎないことになり、宗教が語ってきた天国や地獄や、神話が語ってきた神が住む世界、鬼が住む世界、そしてネット世界、バーチャル空間も全て同一線上に語れることになる。ならば民話や神話に語られる夢と現を行き交うような話は、シミュレートのバグによって生じたものではないのか。人の進化の一つの形として、機械やコンピュータとの融合がSFや都市伝説で語られ始めている。
現実世界でサイボーグとして、あるいはサイバー空間でデータとして永遠に生きるのか、そんな世界でもやはり何かを拝んで救いを求めたくなる時もあるのだろうか。そして形が変わっても永遠に生き続けることは、人にとって幸せなのか不幸なのか、天国なのか地獄なのかの2極性を表現する。
本個展では科学やテクノロジーとは対極に位置する宗教の、シンボルである偶像に3Dモデリングによるバグを起こした形を創造した。これは光背が如来の頭にめり込み、形の表面(ポリゴン)が壊れて体積がない状態。エッシャーの絵のように本来はPCの画面上でしか存在できない形である。PC上でしか存在できない形をリアルに目の当たりにすることによって夢と現の境界線を曖昧にする。個展タイトルの「phantazo」は古典ギリシャ語で「可視化する」の意。本展ではglitch(コンピュータのバグ)を可視化した。

淺野健一さんウェブサイト https://www.k-1asano.com/

取材・テキスト/ライターチームマムハイブ(mamhive)https://mamhive.com/

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