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フォトグラファー 平塚篤史氏インタビュー

インタビュー

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平塚篤史(ひらつか あつし)
1982年東京生まれ。イギリス・ロンドンで4年間演劇を学び、俳優として活動した後、31歳の時にフォトグラファーに転身。台北 国際会議センター中国・長春で撮影したファッション写真・作品集が北京ファッションイベント。中国の地下鉄で展示される。
Louis Feraud がアジア圏で展開した「 “FERAUD ” 2019 S/S キャンペーン」の撮影を担当するなど、国際的に活躍する。
「APA写真家協会 広告アワード2017」入選、「JCリーダーズコンテスト 2018『街・花』」「花」部門EIZO賞受賞、「Contemporary Art Photo & Video Salon in 台北 2019」入選。
現在はファッションポートレートに重点を置き活動している。

【HP】https://atzshi.com/
【Instagram】https://www.instagram.com/atzshicom/

――まずは個展のテーマや作品について教えてください。
今回VIVIでは2019年に発表した「YOUR RUBBER」シリーズの作品を展示しました。
元々はrubberとloverをかけて「could be your lover」という裏タイトルをつけていたのですが、VIVIで展示するにあたり「MISSONATY OF FETISHISM」に変更したんです。「フェティシズムを広めに来ました」みたいな、ちょっと遊び心を加えてみました。

――ボンデージファッションを纏った女性の美しい瞬間を、モノクロームで切り取った「YOUR RUBBER」。このモチーフに至った経緯とは。
「YOUR RUBBER」の原点は、僕が小学校の頃まで遡ります。当時僕は絵を描くのが好きだったこともあり、グラフィックデザイナーの父が参考資料として使っていたイラスト集や写真集をよく眺めていました。
そんなある日、イラスト集に描かれていたボンデージファッションの女性を目にしたとき、とても美しいと感じたんです。それがボンデージに惹かれた最初の体験でした。

もうひとつ影響を受けたものは、演技を学ぶためにロンドンに留学していたとき、THE PRINCE CHARELES CINEMAという旧作を上映するシアターで観た「ロッキーホラーショー」です。劇中でボンデージに身を包んだ人たちが歌ったり踊ったりする姿がとてもセンセーショナルでしたし、ロッキーホラーショーを観ているお客さんも凄く個性的な服装をした人が集まってるんですよ。これも一種の表現であり、フェティシズムであり、アートだなと感じたんです。

そしていざ自分がフォトグラファーとなったとき、写真でそういった世界観を表現したいと思いましたが、当然ながらすぐには実現できません。そこから10年ほど修業期間・構想期間を経て、やっと実現できたのが「YOUR RUBBER」なんです。

――「フェティッシュ」の捉え方に一石を投じるテーマですが、その意図とは。
フェティッシュの世界はどうしても性的なイメージが先行しがちですが、実は年齢や性別を問わず誰でも持っている感覚ではないでしょうか。でも、それを表に出すことは恥ずかしいことだという思いから、アンダーグラウンドの世界でひっそりと楽しむようなものとして扱われています。でも本来は、僕が子どもの頃に感じたように、もっと純粋で美しい世界だと思うんです。
多様性が叫ばれる近年、フェティッシュの世界もオープンで自由なものに変化してもいいんじゃないか?と思い、改めてこの作品を展示しました。

――使用されているボンデージ衣装も印象的です。
作品で使われているボンデージはラテックスで作られているのですが、この素材にたどり着くのにも結構な年月がかかりました。
ボンデージにはよくエナメルやレザー素材が用いられますが、しわができてしまったり、黒が黒色として綺麗に写らなかったりと、なかなかしっくりくる衣装が見つからなかったんです。
そんななか、世界的に著名なラバーブランド「Kurage(クラゲ)」さんの作品に出会い、僕の理想を叶えていただきました。
このラバーの艶感を最大限に活かすために、カメラはライカ、プリントはラムダプリントを使用。写真の陰影を最も綺麗に表現できる方法を模索しました。

――松坂屋名古屋店とVIVIの2拠点での同時開催でしたが、作品のギャップに驚かされました。
松坂屋で展示した「Canyon’s」は、2022年に一度コロナが落ち着いて海外渡航が可能になったタイミングでアメリカに渡ったときに、アンテロープキャニオンを撮った作品です。
アンテロープキャニオンはナバホ族の居住区域内で許可証がないと入れない場所ですし、コロナが流行してからは制限が厳しくなっていたのですが、僕が行ったときは本当にたまたまオープンになっていたんです。
そうやって導かれたようにたどり着いた場所で、あの雄大な景色を作品として発表することができました。

――フェティッシュからランドスケープまで作品の幅の広さが垣間見えますが、役者としてご活躍されていた平塚さんがフォトグラファーに転身されたきっかけを教えてください。
よく皆さんに聞かれるんですけど……「降りてきた」っていうのが正直なところです(笑)。
元々は役者時代、役作りの一環でカメラマンのアルバイトをしていた時期があったので、趣味程度には使えるようになっていました。でもそれで生きて行こうと思ったのは、31歳になるくらいのタイミングで急に「降りてきて」思い立ったんです。
修行期間には、中島清一先生からお花や商品の撮り方、小林幹幸先生とJimmy Ming Shun(ジミー・ミン・シュン)先生からは人物ポートレート・ファッションの撮り方を教わり、フォトグラファーとして独り立ちしました。
役者をやっていたときに培った表現力は、フォトグラファーに転身してからも役に立つことが多いと感じています。特に人物を撮るときは一緒に舞台の上に立って撮影しているような感覚で、一番美しく魅せられるような演出や一瞬を捉えるように心がけています。

――どんなご縁があり、VIVIで個展を開催されたのでしょう。
「YOUR RUBBER」の作品を2022年4月に高島屋で発表したのをキッカケにタカ・プリンシパルさんと知り合い、オーナーの杉本さんをご紹介いただきました。
高島屋での展示当時は、いつかVIVIのような素敵な空間に僕の写真を飾れたらいいなと思っていたので、飾られている今は夢が叶ったというか…とても嬉しい気持ちでいっぱいです。
フェティシズムを切り取った作品がインテリアとして受け入れられているのを見て、タブー視されがちな世界をちゃんと綺麗に表現することができたんだなと思ってとても嬉しいです。

――VIVIの個展では物販も行われましたが、こだわった点などを教えてください。
杉本さんから要望をいただき、今回の個展ではブリスターパックセットを用意しました。メインビジュアルの写真と額装のカードを入れて、インテリアとして飾ってもらえるような工夫をしました。一見Tシャツがメインのような商品ですが、僕としてはやはり写真を飾っていただきたいので、Tシャツの方はあくまでもオマケです(笑)。

――「YOUR RUBBER」の楽しみ方を教えてください。
約10年温めてきたテーマだけにこだわりが随所に込められている作品です。
先ずはインテリアとしての写真作品として、ウィスキーやシャンパン・ワインなどと一緒に写真を観ることを楽しんで貰いたいです。
またこの作品は、額装にもかなりの思い入れがあります。
2019年に初めて「YOUR RUBBER」を作ったときは小さいサイズだったのですが、額装屋さんで今使用している大きいサイズの額装をすでに見つけていました。そして「もしいつか大きなサイズで発表する機会に恵まれたらあなたを使うね」と心の中で約束をしていたんです。そして、結果としてその約束を果たすことができました。
そしてご来場いただいたお客さんには、写真を見ながらぜひその額装に触れていただきたいです。写真を観ながら上から下にすっと撫でおろすと、まるで被写体と触れ合っているような疑似体験ができるんです。
基本的に写真とは写真側と見る側の一方通行なんですが、触覚が加わることで作品とひとつにつながる感覚。心のなかで何が起きているのか……そこで生まれるモヤモヤを楽しんでもらいたいです。少しラバーに近い手触りで温かみがあり、不思議なオーラを放っている額装に触れてみてください。きっと「YOUR RUBBER (LOVER)」の感覚と出会えると思います。

――最後に、ご来店されるお客さんにメッセージをお願いします。
今回の展示はフェティッシュというテーマながら、多くの方に受け入れてもらえて、また綺麗で美しい世界観を表現することができたと思います。多くの女性にもいやらしさを感じない作品と受け入れてもらい、ディープでフェティッシュな世界に触れることで、自分の世界を少しでも広げるキッカケとなり、アートな感覚を楽しんでもらえると嬉しいです。
次回の展示は東京  銀座SIX 5階「アールグロリューギャラリー」にて、9月21日〜10月4日まで開催いたします。
個展ではありませんが、VIVIで展示した「YOUR RUBBER 」作品の展示をご覧いただけます。
是非、また自身の作品を観に来てもらえたら嬉しいです。

――平塚さん、ありがとうございました。

取材・テキスト/ライターチームマムハイブ(https://mamhive.com/)ウシマルトモミ

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