INTERVIEWインタビュー

INTERVIEW

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写真家 緒方秀美氏インタビュー

インタビュー

4月6日(土)から4月28日(日)まで、VIVI2Fアートスペースにて緒方秀美氏個展【force of flower】が開催中です。
今回は緒方秀美氏ご本人にインタビューを実施し、今回の個展の見どころやご自身の作品についてお伺いしました。

profile

緒方秀美 @hidem1224
【HP】https://hidemiogata.com

写真家 熊本県出身

20歳で渡米後、N.Y.でアンディ ウォーホールはじめ多くのアーティストと親交を深める。N.Y.アンダーグランドシーン伝説のクラブ-パラダイス ガラージで出会った黒人達のポートレート写真展開催をスタートとし、東京 、ニューヨーク、ヨーロッパ、イスラエルと、写真家としての道を追求する。
「今が全て、この一瞬が永遠」をモットーに、スピード感のある作風と人の内に秘めた本当の姿を一瞬で見抜きカメラへと収めていく類まれなる技術で多くのミュージシャン、クリエーター、アスリート、世界中のセレブから一個人にいたる多くの人々から信頼を集める。
1995年ブランキージェットシティ写真集撮影で日本でのデビューを果たす。
2011年日本の国技の大横綱となった第69代横綱 白鵬 翔の写真集出版で国内外から大きな評価を得る。
2023年全人類のオンリーワンの魅力を撮影を通して、分断が進む世界において人が共に生きる事、理解し合う事を骨太に発信するコンセプトでGypsy Photographer Projectを始動、2024年にはオンリーワンの撮影の収益で陽光桜を世界中に植樹する定義を加え地球規模のアート活動として新たなプロジェクトとして始動する。

【撮影アーティスト】
アンディーウォーホール 、横綱白鵬、花田裕之、矢沢永吉 、B’z 、小室哲哉 、横尾忠則 、山口少夜子 、Blankey Jet City 、魔裟斗 、The Yellow Monkey 、他多数

【写真集】
Blankey Jet City:(1995年12月)
氷 (1999年2月)
Diamond Cat 緒方秀美写真集(2000年12月)
魔裟斗: MASATO-Silver Wolf 写真集(2002年1月)
横綱白鵬写真集(2011年1月)
陽光桜-FORCE of LOVE(2017年1月)
ROCKERS OF THE HOLY LAND-イスラエル写真集(2019年7月)

――今回の個展のコンセプトについてお聞かせください

今回の個展「force of flower」は直訳すると「花の力」という題名ですが、力を英語で表すときによく使われる“power”ではなく、敢えて勢力や軍事力を意味する“force”を使っています。

わたしは元々ロックバンドやアスリートの方々の姿をワイルドな作風で表現してきたのですが、今回は「陽光桜」という今までにない被写体を撮影しました。

――陽光桜を撮ろうと思ったきっかけは何だったのでしょう

陽光桜が誕生した背景を知り、そのストーリーに惹かれたことがきっかけでした。

陽光桜は、第二次世界大戦時代に愛媛県で教師をしていた高岡正明さんが開発された品種の桜です。

高岡さんは教え子を戦争に送り出すときに「日本は神の国だから必ず勝つ。また桜の下で会おう」と約束を交わし、桜の下で記念撮影をして別れたそうです。しかし、送り出した多くの教え子たちの命がシベリアやインドシナ半島で散っていったことを知り、高岡さんは悔恨の想いと平和への祈りから、教え子たちが眠る寒い土地、暑い土地でも咲く強い桜を作る決意をされました。

幾度にもわたる失敗を繰り返し、周りからも到底無理な試みだと言われるなか、それでも30年かけて200種を超える桜の交配の実験を行って、やっと開発できた品種が陽光桜なんです。

どんな気候でも育つ強さだけでなく、世界中の人に見てもらうために外国の人が好むビビットなピンク色にすることも高岡さんのこだわりでした。

また、わたしは「大宇宙から世界を見たときにピンク色の花でいっぱいだったら、その下で人々は笑い合うしかないだろう」という高岡さんの口癖にも心を揺さぶられました。

なので、表面的には今までのハードボイルドな作風から一転したようにも見えるんですが、実はピンク色の可憐な花のなかにある、高岡さんのぶれない信念、既成概念をぶち破って自分の魂の声に従って生きる姿勢に共感したことから生まれた作品なんです。

――今回の展示で見ることができる陽光桜以外の作品について教えてください

「今わたしが感じていることを全部空間に表現したい」という想いで展示の構成を考えました。

メインビジュアルになっている陽光桜のなかにある十字架は、陽光桜をメインとした個展にしようと思ったときにパーンとおりてきたイメージなんです。

過去作の写真集「氷」に掲載されている切ない風景から7枚を選び、その写真を十字架の形に並べて陽光桜の写真にはめ込みました。

これには、今までの過ちや葛藤、切ない想いをすべて陽光桜が優しく包んでくれて、歓喜の世界に導いてくれるというメッセージが込められています。

そしてもう片方の壁面には「Flesh and Blood」で発表した激しい風景を展示しています。そのなかには東京が爆発しているように見える一枚があるんですが、それは「今まで人間が作ってきた既成概念が爆発して壊れた先に本当の愛がある」というイメージを、人類愛のシンボルである陽光桜と一緒に展示することで表現しました。

わたしは4年前イスラエルでフォトメッセージブックを撮ったのですが、そのときに「ひとりひとりが自分の存在を認めて喜ぶことが、生まれてきた本来の意味ではないだろうか」と強く感じたんです。今は世界各地で戦争が起きたりと時代が大きく変わっている節目なので、今回展示している作品は「世界中の人々に喜びを感じていてほしい」というわたしの願いを込めて作りました。

――イビザの塩を使った作品について教えてください

わたしは陽光桜を撮りながら、まるで愛のシャワーを受けているように高岡さんが陽光桜に込めた人類愛を強く感じていました。

そして、同じタイミングでたまたま愛と平和の島で知られるイビザ島の塩に出会ったんです。
スペインと日本のハーフのエクトルが扱っている、イビザの塩を使用した塩ヨーグルトをいただいたときにとても美味しかったのでイビザの塩を購入しました。最初は料理に使っていたのですが、あるときお風呂に入れてみたんです。そうしたらすごくお湯がまろやかになって、気持ちも上がるし、なんだかクリアになるような感覚で。

陽光桜とイビザ島は「愛と平和」でリンクしていることに気付いたので、そのふたつのエナジーを掛け合わせることを思い付き、陽光桜の写真にイビザ島の塩を加えてレジンで固めた作品を作りました。

――作品にレジンを扱うようになったきっかけは

今まで様々な写真を個展で発表してきたのですが、思っているような額がないなと感じることが多かったんです。写真を直接飾るような方法がないかなと考えているときに、フォトグラファーのタカ・プリンシパルさんがレジンを使っているのを見て、使い方を教えてもらったんです。

でも、これが思ったよりも大変で……もう二度とやらない!と思ったこともありました。それでもなんとかコツを掴んでようやく上手にできるようになってきた今、こうしたレジンの良さを活かした作品を発表することができました。

そもそもフォトグラファーはすごくディティールにこだわる人が多くて、印画紙を傷付けないようにと細心の注意を払っているものなので「写真の上にレジン塗るなんて、よくそんなことができるね」と言われたりもしましたが、わたしの作品づくりのスタイルって元々そういうところがあって。昔は撮影した写真のなかに不要な風景があったらブワーっとスプレーをかけて削ったりもしていたので、全然抵抗はなかったですね。

――近年緒方さんが力を入れていらっしゃるパーソナルフォトセッション「Only One by Hidemi Ogata」について教えてください

わたしは、18歳でカメラを手にしてこの世界に飛び込みました。最初はスーパースターを撮ることが写真家としてのステータスだと思い、ずっとそういう世界で写真を撮ってきました。

そのなかで、イスラエルやアメリカのデスバレーなどの大自然から物凄いエネルギーを受けるなどの経験を重ねるうちに、考えも変化してきたんです。

もちろんスーパースターは輝いているんですけれども、スターだけが輝いているのではなくて全人類がその人にしかない魅力を持って輝いているんだという境地に至りました。

しかし同時に、ひとりひとりの存在がアートであり、尊くて貴重な存在なのに、それに気付いていない人が多いなと思ったんです。

そして、皆さんが持つ無限の可能性に気付いてほしいという思いから、去年から本格的にパーソナルフォトセッション「Only One by Hidemi Ogata」を始めました。

1分くらいの時間でバンバン撮っていくんですが、その間にその人の本質や個性、魅力が引き出されてくるんですよ。フォトセッションをすると皆さん本当に喜んでくれて、中には「人生が変わりました」って言ってくださる方もいたりして。その様子を見てわたしも本当に嬉しかったですし、これは写真家としての役割なんだろうなと思いました。

それに、わたしは「終わりがないもの」が好きなんです。

例えば、すごく苦労してひとつの写真集が出来上がったあとって、やはり一瞬燃え尽き症候群みたいになってしまうことがあるんですよ。

でも、このプロジェクトでは全人類撮影する思いなので終わりがないですし、たとえわたしの肉体がなくなってからでも誰かが引き継いでくれると思っています。

――今回の個展期間中に開催される特別フォトセッションについて

全4回のうち2回はもう終わってしまったのですが、4月22日(月)と4月27日(土)15時 〜17時 VIVI2階アートスペースにおいて、特別フォトセッションを開催します。

初めの30分は写真展およびGypsy Photographer Project featuring 陽光桜のトークショーがあり、そのあとにフォトセッションを行います。

フォトセッションの収益は陽光桜を植樹する活動費になるため、フォトセッションに応募してくださった方は陽光桜のプロジェクトに参加できる仕組みになっているんです。

自分の花を咲かせることができて、さらに世界に花を咲かせることができるというこの愛の循環かつ地球規模のアート活動で、歓喜にあふれた世の中にできたら嬉しいですね。

――VIVI、そして名古屋で個展をすることの感想を教えてください

わたしは20代をNYで過ごしていたのですが、その当時のNYはポップアートの巨匠であるアンディウォーホルやキース・へリングなどを筆頭に「アートを、特別な階級の人たちのものではなくみんなのものに」という動きがあったんです。地下鉄や町の壁など日常にアートが溢れているような環境で、その当時の街のエネルギーがすごく好きでした。

だから、わたしは写真を真面目に鑑賞するためだけに行くような真っ白な空間に飾るよりも、生活の中にわたしの写真がある、っていう感じが好きなんです。

他の要素で自分がハッピーになれるような場所で、それプラスわたしの写真があったらいいなと思っているので、1階でご飯やお酒を楽しみつつアートも感じられるVIVIはわたしにぴったりだなと思いました。

そして、帰国してから初めて発表した作品が伝説のバンドであるBlankey Jet Cityの写真集なのですが、Blankey Jet Cityのメンバーのうちふたりの出身が名古屋なんです。昔からそうした縁を感じていた土地なので、今回初めて名古屋で個展ができることを嬉しく思っています。

――作品の楽しみ方を教えてください

今までの個展って、どうだー!なんぼのもんじゃい!みたいなマインドで、自分の感性やスキルを世間に示すためにやっていたんですよ。

でも、今回の個展は「皆さんに届けたい」という気持ちがとても強かったので、家に飾れるようなサイズ感、そして軽量化にもこだわってひとつひとつ手作りした作品を展示しています。陽光桜とイビザの塩という半端なく強い愛のエネルギーを閉じ込めたので、わたしの作品を通して皆さんが元気になってくれることを願っています。

展示の楽しみ方としては、もちろんわたしが考えたストーリーはあるのですが、あまり「これにはこういう意味があります」って説明してしまうと、心で楽しんでもらえないと思うんですよ。もうただただ感性のままに、かっこいいなとか素敵だなって感じてもらえたら嬉しいですね。

――最後に、お客さんへのメッセージをお願いします

わたしは今回初めて花を撮って、花が持つ愛のエネルギーを強く感じました。
小さな一枚の写真からでも、愛や歓喜を届けたいと思って作品づくりをしたので、皆さんに受け取っていただけたら嬉しいです。

――緒方さん、ありがとうございました。

取材・テキスト/ライターチームマムハイブ(https://mamhive.com牛丸朋美

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